Big4をはじめとする大手のグループには、コンサルティング会社のほかに、FASと、監査法人の中のアドバイザリー部門があります。名前が似ているので、「何が違うのか」「どれを受ければよいのか」という質問をよくいただきます。

結論から言うと、3つは扱うテーマが違います。優劣ではなく、向き不向きの問題です。

  • コンサルティング会社:戦略、業務、ITまで幅広く扱います。
  • FAS:M&Aを中心に扱います。M&Aの戦略づくりや事業の調査から、財務の調査、企業価値の算定、買収後の統合、事業再生まで、部門によって仕事が大きく違います。
  • 監査法人のアドバイザリー:会計、内部統制、リスクなど、企業の土台を固める領域に強みがあります。

コンサルティング会社と監査法人のアドバイザリーの違い

同じグループでも、コンサルティング会社は戦略、業務、ITまで幅広く扱います。監査法人のアドバイザリー部門は、母体が監査法人なので、会計、株式公開の準備、内部統制、リスク管理、不正調査など、企業の土台を固める領域が中心です。

集まる人にも傾向があります。監査法人のアドバイザリーには、監査の経験者や会計の素養がある人が集まりやすいです。ただ最近は、ITやリスクの領域を中心に、会計士以外の人も多く在籍しています。

同じITの仕事でも、色合いが変わります。コンサルティング会社はDXの推進や大規模なシステム導入、監査法人側は会計まわりのシステムやリスク、セキュリティ寄りになりやすいです。どちらのITに関心があるかで選ぶと、入社後のずれが減ります。

入りやすさは一概には言えません。知名度はコンサルティング会社のほうが高く、応募が集まる分だけ門は狭くなりがちです。監査法人のアドバイザリーは会計士向けという印象が強く、相対的に穴場になっていることもあります。ただし、採用の計画は年によって変わるので、去年入りやすかった部門が今年は絞る、ということも普通に起きます。

FASの仕事内容:部門によって中身が大きく違う

FASは、M&Aに関わる仕事を幅広く扱います。大きく分けると、次のような部門があります。

  • M&Aの戦略づくり、事業の調査(ビジネスデューデリジェンス)、買収後の統合を扱う部門。
  • M&Aの助言をして、取引の全体をまとめる部門。
  • 財務の調査(財務デューデリジェンス)や、企業価値の算定を扱う部門。
  • 事業再生を扱う部門。

「FASは財務や会計の仕事だ」と思われがちですが、そう一括りにするのは正確ではありません。

M&Aの戦略づくりや事業の調査を扱う部門の仕事は、戦略コンサルにかなり近いです。論点を整理し、仮説を立てて検証する進め方が中心になります。一方で、財務の調査や企業価値の算定を扱う部門では、会計やファイナンスの知識が土台になります。同じFASでも、どの部門に入るかで、求められるものが大きく変わります。

そのため、FASを受けるときは、会社の名前よりも、どの部門で何を担当するのかを確かめることが大事です。

コンサルティング会社とFASの間を移る場合も、同じ点に注意が必要です。総合ファームでシステム導入を経験した人が、同じ職位のままFASに移り、資料作成で苦労したという相談を受けたことがあります。本人の能力が足りないのではなく、求められるものが違うのです。資料の作り方の作法も違いますし、部門によっては、ファイナンスや会計の勘所をつかむのに実務経験が必要です。

FASから戦略コンサルへの転職は珍しくない

FAS出身者は、戦略コンサルに普通に転職しています。入社して3年以内くらいの若いうちに移る人が多い印象です。M&Aの経験を一通り積んでから、と考える方もいます。しかし、早い時期に移った人のほうが、入社後に力を出している印象です。

特に、ビジネスデューデリジェンスや事業計画の策定に関わってきた人は、戦略コンサルとの相性がよいです。投資ファンドが関わるM&Aが増えており、戦略ファームでもM&Aまわりの案件は増えています。その分、この領域の人材は不足しがちです。FASでの経験と強みをきちんと伝えれば、戦略ファームに入れる可能性は十分あります。年収を上げたいという目的でも、理にかなった道です。

一方で、戦略ファームの側は、FASの中の部門ごとの違いをあまり理解していません。どの部門にいたかよりも、何をやってきたかを具体的に説明できるかどうかが問われます。

FASのその後のキャリア:事業会社のM&A担当・PEファンド・投資銀行

FASでの経験は、その先のキャリアにもつながります。代表的な行き先は、事業会社のM&A担当、PEファンド、投資銀行です。

事業会社のM&A担当に移るのは、王道の一つです。FASでは、M&Aの一部の工程を外から支援します。事業会社に移ると、戦略づくりから買収後の統合まで、一貫して関われるようになります。専門家として外から見ていた世界を、今度は内側から動かす経験ができます。働き方が落ち着くことも多いです。30歳前後であれば、事業会社で数年経験を積んだ後に、助言する側に戻る道も現実的です。

PEファンドに移る人もいます。ただし、狭き門です。また、事業再生の部門から移る場合は、小規模な案件を扱うファンドが中心になります。より大きな案件を扱うファンドを目指すのであれば、戦略コンサルを経由するほうが道は開けます。

これに対して、コンサルティング会社の先には、コンサルを続ける道のほか、事業会社の経営企画や事業企画、ITに関わる職種など、幅広い行き先があります。

FASとコンサルの境目はあいまいで、誰の下につくかで仕事が変わる

ここが実態として一番大事な点です。コンサルティング会社、FAS、監査法人のアドバイザリーは、領域もクライアントも完全には分かれていません。同じ会社を相手に、別々の組織がそれぞれの切り口で入っていることも普通にあります。

同じような案件でも、結局は上に立つパートナー次第という面があります。あるパートナーが領域を超えて案件を取っていれば、別の組織がやっているような仕事まで経験できます。どの組織に入るかより、誰の下につくかで、担当する案件は大きく変わります。

Big4など大手ファームの間の差は小さい

「グループの中でどこが格上か」「大手のどこがよいか」と聞かれることがありますが、大手ファームの間に決定的な差はありません。業界やテーマによって、それぞれに強みと弱みがあるという違いです。

転職市場で見られるのは、社名の違いよりも、ファームの中で積み上げてきた実績です。昇進しているか、どんな案件でどんな役割を担ったか。どのファームにいても、3〜4年勤めて一度も昇進していなければ、評価されていない人だと見られます。

FASのデューデリジェンスはAIでどう変わるか

FASを考えている方から、「調査の仕事は、AIに置き換えられるのではないか」という質問もいただきます。

デューデリジェンスは、公開情報の整理やデータの分析が多いので、AIで省力化されやすい仕事です。1つの案件に入る人数は、今後減っていくと見ています。これは戦略ファームでも同じです。

一方で、M&Aの件数そのものは増える傾向にあります。また、調査では、業界の専門家や対象の会社への聞き取り、現地を実際に見て得た情報をもとに評価することが重要です。この部分は、AIだけでは置き換えにくいと考えています。ただし、AIの進歩は速いので、この先を正確に見通すことはできません。

FAS・コンサル・監査法人アドバイザリーの選び方

選ぶ基準は、何に興味があるかと、その先にどんなキャリアを考えているかの2つです。

  • M&Aに関わる仕事がしたいなら、FASが合います。そのうえで、戦略や事業の調査に寄せるか、財務や会計に寄せるかで、部門を選びます。
  • 会計、内部統制、リスク管理を軸にしたいなら、監査法人のアドバイザリーが合います。
  • 幅広いテーマで、どの業界でも使える経験を積みたいなら、コンサルティング会社が合います。問題を解くこと自体を面白いと思えるかどうかが目安です。
  • 将来、事業会社のM&A担当、PEファンド、投資銀行に進みたいなら、FASでの経験が役に立ちます。
  • 将来、戦略コンサルに進みたいなら、FASでM&Aの戦略や事業の調査の経験を積み、早い時期に移る道があります。

どれを選ぶにしても、興味のない分野から始めないことです。最初の分野での経験が、その後の転職でも評価の対象になるからです。